少年という人間
 
レジェディアでの大乱が終わった後、俺はあの黒い卯人のグループを離れミリアと共にミコトを探していた。
「ミコトの匂いが微かに残っている。辿れそうだな」
「……そうか」
俺はミリアを見た。
その表情にはいつもの憚らない元気の良さと覇気がなかった。
「さっきの…スメラギのこと…そうか、お前の言っていた師匠ってあいつだったんだな…」
 落ち込むことはないだろ。お前を人質にした途端あいつは去っていったし、お前はちゃんと大切に思われている。
「……おぅ」
 そのうさんくさいののどこがいいというのだろう。しかし、この時のミリアの顔は俺には歳相応の女の子の顔に見えた。
 
 しばらく匂いを辿り歩いていると、その匂いは城下町まで続いているようだ。
 さらに追って歩いていくと、細い路地の中に入っていった。
 日は先程昇ったものの、未だにその光は細い路地まで入っておらず薄暗く影を落としていた。
「ミコト!ここにいるのか!」
 返事はなかった。
「あいつはどこへ行くつもりだ?」
 さらに路地裏へ…路地裏の奥へ行ってみるとそこにはミコトがいた。
「ミコト!ここで何して…」
「………」「?」
 様子がおかしい…。ミコトは壁に背を預け微動だにしていなかった。
「ミコト…?」「………」
 近寄って気づいた。息が荒い!?
「どうした!? おい…おい!」
 揺さぶって大丈夫か一瞬危惧したが、身体を揺する。
「…う、う…ああ、どうしました犬さん?」
 よかった平気だった。だが顔色が青ざめていて口元に血が滲んでいた。
「戦いで深手を負ったのか?」
「いえ…どうも力を使いすぎたようなので休んでいました」
「…お前が鬼神を殺したのか?」
「傷は与えて致命傷を与えました。しかし、勝ったのはサリーです」
「あのケツ目が…!?」
「たはは…サリーは私より強くなってしまったみたいです」
「そうか、あれはあの姫さんが…で、どうしてお前はここにいる?」
「逃げたんですよ…サリーのあの勢いだったら…今度こそ私は彼女の仲間になってしまいそうでしたから」
「駄目なのか?」
「駄目です。私と彼女の道は違います」
「お前はまだそんなことを言う」
「いつまでだっていってやります…私は鬼が憎い」
 ミコトはミリアの顔を見て言った。それはやつあたりだ。
 ミリアはミコトの視線を真っ直ぐみつめた。先程と同じ暗い表情ではあったが。瞳に力があった。
「お前はお前じゃないんだな」
「何を…私が私である為に鬼を殺すんです」
「お前も拙者と同じだ。繋がりを持つ為に自分が自分であろうとする」
「わけのわからないことを…私はただ憎いから…」
「だったらお前は自分じゃなくていいはずだ。憎しみのために全て捨てていいはずだ」
「え……」
「結局のところお前は誰かの為を求めているから非情じゃないんだ。中途半端なんだよ」
「そんなことは」
「拙者がここにいるのはお前が中途半端だからだ!」
「完璧なんて…できませんよ!自分が満足するまで頑張ってるだけじゃないですか」
「人間が!」
お…おいおい、何喧嘩しちまってるんだよ。
「迷惑なんだよ!中途半端な憎しみ向けられてもうざってぇだけだ!」
「だったら…さっさと去ればいい!」
「できねぇよ!!」
「なんで!」
 
 
「慰めてほしいからだろぉが!!」
 
 
その後、ミリアはミコトにひたすら愚痴り、ミコトもひたすらミリアに愚痴った。色っ毛を出しそうな時があればすぐに一食即発の状態になるときもある。
 だがこいつらは友達なのだ。本当にそう思った。いつしかミコトはミリアがいないと暴走するのだ。そしてミリアはミコトがいないと頼る者がいないのだ。
 だからこいつらは友達で、一緒に旅をしているのだろう。
 俺は犬だからそんなことはできない。
 だからミコトから感情を引き出すミリアが羨ましく思えた。

 そうか、やっぱりミリアはミコトの初めての友達なんだ。

 

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