雨が降った後の露が残る草原。だが辺り一帯が血で覆われていた。

 その血は人を集団で襲う狼の血だ。しかし、その狼の群れも一匹残らず行き絶えていた。

「襲い掛かる人間を腹が減った獣は選べないというのは難儀ですね」

と、言ったのはこの惨状を作り出した旅人のキビツミコト。伸ばし放題の髪に癖ッ毛がぴ

ょこんと立ち、童顔で無垢な顔をした少年だ。着込んだ厚手の羽織はゆったりしているが

その下にハーフパンツといった動きやすいのかやすくないのかわかりにくい格好をしてい

る。

 ミコトが握っているのは体には不釣合いに大きい血のついた刀だった。この刀で狼達を

皆殺しにしたのだ。

「昼飯だな」

と、ミコトの後ろで涎を垂らしているのはふとしたことで知り合った旅の仲間ミリア。

 ミリアはシスターらしい。よれよれのシスター服を纏い、聖書は持っておらず、主を一

応信仰しているシスターらしい。前髪からは短く切りそろえた金髪が雑草のようにばらば

らと生え、その短い髪すらも露出するほど修道帽を浅くかぶっている。本人は着衣式も終

えている修練を終えた生粋のシスターだと主張しているが、以前平気でミコトが薦めた平

服を着ているので怪しいものだ。

 そのミリアの拳には血がついている。この拳で狼を撲殺したのだ。

「食うのか…おい、俺に共食いしろというのか?」

と、言ったのは犬。何故か人語を解し、人並みの考え方と倫理観を持った犬だ。

「これは狼ですよ。犬じゃないです。ちょっと似ているだけですよ」

「そうだ犬、狼のほうが大きい分食いがいがあるだろう」

「…いいよ、もう虫食べるよ俺」

犬は鼻を血に擦りつけてあたりの虫を探し始めた。

そして昼食後…

「全部たいらげやがったよこいつら」

狼達は骨までしゃぶりつくされてしまったと思うと、同じ四足歩行の犬としては背筋が凍

る想いなのだが、食い尽くした当人達は素知らぬ顔だ。ミリアに限っては口に骨をくわえ

ておしゃぶりにしている。こいつらの気遣いの心は犬以下だと犬は思った。

 

 

 

ミコト達は旅をしている。それは果てがあるのかないのかわからない旅だ。

 ミコトは大切な人を鬼に殺されて復讐の旅。犬はミコトが暴走しないように嗜め、お目

付け役を果たす旅(できてない)。ミリアは自分のプライドを取り戻すために一度負けた相

手を打ち負かすための旅。

 それぞればらばらな目的のたびだが、最近はいろいろあって良いチームになりつつある。

と、犬は思っている。

「なぁ、ミコト狼も煮ればなかなかいけるな。歯ごたえも独特だし」

「そうですね…そういえば犬も狼も大して変わらないなら食感も同じですかね?」

「非常食は決まりだな!」

「……」

最近はいろいろあって良いチームになりつつある。と、犬は思い込もうとしている

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